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「馬鹿だねぇ、校区違うんだから転校させないといけないに決まってるでしょ」
「え、マジかよ、じゃぁやっぱり小学校卒業してからの方がいいかな…」
フレンを引き取ると宣言してから二日後、ユーリは学校を終えるとすぐフレンを迎えに来た。
そして、お説教を受けている。
隣には体の割に大荷物に囲まれたフレンが体育座りをして大人しく待っている。
しかしユーリの言葉に思わず声を大きくした。
「えっやだっユーリ置いてかないでっ」
ユーリの腕にしがみついて不安そうな顔で見上げる。
「ん、でも転校すんだぞ。入ってまだ2ヶ月の学校を。友達とも離れることになるし…」
大体手続きとかよくわかんねぇ。
本音は隠したがフレンはそれでも構わないとしがみつく手を強くする。
しかし母は心を読んでいた。恐るべし。
「あんたには無理。高校生でしょ。手続きはお母さんやってあげるけど…
こんなんでフレン育てていけんのかしらね…」
母は頬に手を当てて不安そうに息を吐いた。
「だいじょうぶだよ、お母さん、僕ちゃんと一人で大きくなるよ!」
「…フレン、それちょっと違うな。」
ユーリは見事に精神的ダメージを食らった。
「よし!忘れ物ねぇな!」
「はい!」
手を挙げて元気よくお返事する。
「皆に挨拶もしたな?」
「はい!」
「じゃ、出発するか!」
「はい!!」
最後の返事だけは嬉しさが前面に押し出されていてユーリは目を細くした。
フレンの荷物を殆ど持ってやり、玄関に向かう。
「フレン、お家寂しかったらいつでもここに来なさいね」
「うん!」
母親の言葉にもこくりと大きく頷いた。
「ユーリまたお土産持って来てね~」
最早目当てがお土産になっている可愛いげのない子供たちには「へいへい」と適当に手を振った。
「ねぇ、お母さん、僕この間テレビで見たんだ~」
母親のスカートをくいっと引っ張る子供。
知らない顔、新入りだ。
何?と母親が目線を合わせる為にしゃがむ。
「小さい男の子好きな人ってショタコンって言うんだよね?」
「ぶっ!」
げほげほと思わず噎せてしまった。
「だいじょうぶ?ユーリ」
と背中を摩る健気な子供。
「…ユーリ…信頼してるからね…」
母からも冷たい視線を向けられた。
「ショタコンじゃねぇっつの!さすがにもうちょいでかくならねぇと手ださねぇよっ」
言った瞬間「あ」と墓穴を掘ったことを理解し、慌てて立ち上がる。
「フレン行くぞっ!」
「ちょっとユーリ!大きければいいってもんじゃないのよ!?」
母の切実な言葉が心に突き刺さる。
しばらく走ったところで漸く落ち着いて歩調を緩めた。
「あ~…もうあんま顔出せねぇな…」
あの新入りの目には俺はただの変態に映っただろう。
うんざりしていると息を整えながらフレンが見上げる。
「ユーリ、手、出すってなに?僕手出されるの?」
「………」
子供の無邪気さが俺には痛い…。
「…えーっとだな…」
ユーリは少し考えて、そして。
「俺のお嫁さんになるかって話だ。」
「…およめさん?」
「なんて…」
「なる!」
冗談で済ませようとしたところに元気のいい声が返ってきた。
「は?」
「僕ユーリのおよめさんなる!」
えへへと笑う幼気な子供。
「…お前天使みたいな奴だなぁ…」
しゃがみ込んで頭を撫でてやる。
「僕は天使じゃないよ?」と首を傾げるから思わず抱きしめてしまった。
周りの反応が少し痛かった。
家に着いた。
「ここ。」
と言いながら鍵を開ける。
「道ちゃんと覚えたか?」
「うん!ばっちりだよ!」
扉を開ける。フレンはユーリの後から「おじゃまします」と言って入ってきたから
「ただいまだろ?」と言ってやると恥ずかしそうに笑って「ただいま」と言った。
「…ユーリ…お部屋がきたないよ」
何があったんだと驚愕の色を見せるフレン。
「えーっと…片付ける暇なくてよ…」
とりあえず笑ってごまかすとフレンはむぅっと眉を寄せた。
「お掃除!お仕事行く前にお部屋片付ける!」
フレンは散らかった部屋を指差しユーリに命令した。
「あぁはいはい…」と仕方なく付き合う。
見るとフレンはテキパキ物を纏めてゴミもがさがさと袋に詰めていく。
綺麗好きな様だ。
それにしても…
「いい奥さんになるな…」
としみじみ感じずにはいられなかった。
今の俺と同じ歳になるときには俺は25か…
それくらいなら世間的にオッケーか…?
なんて、頭の中で将来設計なんて真面目に考える自分にユーリは自嘲した。
「ユーリ休まないで!」
「あ、すみません…」
立場が逆転しつつあると感じた瞬間だった。
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長いので二つに分けようか悩んたんですがそれも微妙だな~と。
これにてこのお話はおしまいです。お付き合いありがとうございました!
次回なんですが…ネタバレですが死ネタです。ご注意ください。
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二人は向かい合って座る。
とは言ってもフレンが座っているのはユーリの足の上で、昔からの定位置だ。
「本当にいいんだな?お前のことを考えるなら俺はきっといけないことを言ってる。
ここに居た方がお前にとって幸せなことは確かだ。」
「ユーリがいないから幸せじゃないよ」
フレンは真っ直ぐユーリを見詰めた。
「だいじょうぶ。僕何でも一人でするよ。ユーリには迷惑かけない。」
「……ん~…フレン。」
「なぁに?」
フレンは可愛く首を傾げた。
なんでこんなにかわいいのだろうか。
俺はショタコンじゃないはずなんだが。
誰かに聞かせたら「どの口がそれを言う」と一蹴されそうだが。
そんなことを微塵も顔に出さずにユーリもフレンを見詰める。
「俺と一緒に暮らしたいなら一つ条件がある。」
「う?」
「もうちっと我が儘になれ。」
「……我が儘言うとユーリに嫌われちゃう…」
フレンは首を振っていやいやと拒否した。
「それくらいで嫌いになったりしない。約束する。お前が言いたいこと我慢するなら俺はお前を連れてかない。」
えっとフレンは目を丸くしてユーリの服を掴む手を強くした。
「やだっ我が儘言うからっ置いてかないでっ」
泣き出しそうなフレンの頭を撫でてやって約束だ、と微笑む。
「うん」
こっくり頷いたフレンをギュッと一回抱きしめてやって、額に軽くキスをした。
「よし!じゃ、次来るときまでに準備しとけよ」
「え、今日じゃダメなの?」
「一日じゃ荷物纏めらんないだろ、明後日俺バイトいつもよりちょっと遅い時間からだから
そん時迎えにくる。学校の制服とか、教科書とか、パジャマとか、準備するものいっぱいだろ?」
「…うん…」
フレンは少し不安げに頷いた。
このまま置いて行かれるんじゃないかと、
そう思ってしまうのは捨て子であるフレンにとってはしょうがないことなのだ。
「大丈夫、明後日のこの時間にまた迎えに来る。
すぐ連れてくから準備はしっかりしとくように!いいな。」
「はい!」
いい返事だ、とまた頭を撫ででやる。
そう言って体を離す。
「じゃ、俺は帰るから、また明後日な。」
「うんっ」
フレンは嬉しそうに笑う。
まるで欲しかったものを与えられた時のように。
あぁそうか…
ユーリは気付く。
何でもよかったのだ。
ユーリがくれるものなら、人の優しさがこもったものなら、何でも。
フレンがいつも欲しかったのは、人の温もりなのだから。
今更気付いてごめんな。
ちゃんと、お前の初めての我が儘を受けとっていたら良かったな。
ユーリは堪らなくなってまたフレンをギュッと抱きしめる。
「あれ~ユーリまだ居たの~?」
可愛いげのない子供たちの声が背中に刺さった。
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あとおまけがつきます~~
「フレン」
名前を呼ぶと大袈裟に跳ねた体はパタンと勢いよく本を閉じるとそそくさと部屋を出ようと立ち上がる。
避けようとされている。
「フレン、ちょっと待てっ!は、話があるんだ。な。」
慌てて呼び止めてフレンは立ち止まる。
ほっと一安心して部屋の真ん中に座る。
「フレン、こっちきて」
フレンは悩んだ末、その立ち尽くした部屋の隅にぺたんとしゃがんだ。
まぁいいか、と話を始める。
「フレン、元気にしてたか?」
こくりと頷く。
「新しく家族増えたんだな。皆と仲良くやってるか?」
またこくりと頷いた。
「………なぁフレン、俺がいなくて寂しかったか?」
「…………」
フレンは頷かなかった。
ゆっくり声を搾り出す。
「…じょぶ……だいじょうぶ。ユーリがいなくても…寂しくない…」
「……フレン」
「もう言わない。我が儘言ってごめんなさい…ユーリきっと僕のこと嫌いになったでしょ?
いい子じゃないし…お見送りにも…行かなかったし…」
「んなことねぇよ、お前のこと嫌いになったりしない」
「………ほんと…?」
「ほんと。」
「………、よかった…」
フレンは少し振り向いてほっとしたように微笑んだ。
その笑みに手を伸ばしたくなる衝動をやっとの思いで抑え込む。
「なぁフレン、俺がいなくて寂しかったろ?」
「……さみしくないよ」
「俺は寂しかった。」
「……?」
フレンは体を少しユーリに向けて首を傾げた。
「毎日毎日…寂しかった。お前に会いたくて…しょうがなくなった。」
「…ユーリ、僕がいなくてさみしいの?」
ユーリはフレンをただずっと見詰めた。
きっとダメなんだ。
こいつのことを考えるなら言ってはいけない言葉を、俺は今から口にする。
お前より、自分のことを考えたこの俺を、未来のお前は許してくれるだろうか。
「フレン」
「はい」
丁寧なお返事を頂いた。
フレンも大切な話をされるとわかっているかのように。
「俺は…朝から学校だし…それから家にも帰らずバイト行くし、帰って来るのはいつも夜遅くなる。」
フレンは頷く。
「ご飯だって…休みの時くらいしか作ってやれねぇし、毎日毎日お前に寂しい思いをさせると思う」
「うん」
「…自分のことは本気で自分でやってもらわなきゃいけなくなると思うし、贅沢もさせてやれねぇ」
「…うん」
「…フレン」
「……」
「それでもいいなら…一緒に暮らそう。お前を…引き取りたい。」
「…………っユーリ…っ」
フレンは目に涙を溜めて立ち上がる。
狭い部屋を、ユーリのところまで走って、ユーリにしがみついた。
「…っぼく…ユーリと一緒にいたい…っ!夜にはユーリ帰って来てくれるなら…寂しくない…っ
ユーリがいない方が…ずっとずっと寂しい…っ」
「…ごめん、ごめんな、フレン…」
俺の我が儘に付き合わせて…本当にごめんな。
二人はギュッと強く抱きしめ合った。
今日はバイトは休みだ。
ユーリは学校が終わって、施設を目指した。
会いたくなってしまった。
どうしようもなくあの小さな子供に。
門をくぐると庭で遊んでいた子供がユーリに気が付いた。
「あっユーリだーっ!」
「制服だ~っ」
子供たちが嬉しそうに走ってくる。
「よ、元気にしてたか?」
「してたしてた!ユーリお土産は?」
「お前らな…」
二言目にはそれか。
少し虚しい気もするがユーリはコンビニで買ったお菓子を手渡す。
「わ~いお菓子~!」
「皆で食べよ~!」
お菓子に群がる子供たち。
見れば知らない顔がいる。
新しく入って来たのだろう。
知ってる顔の人数も少なくなっている。
誰かに貰われたのだろうか。
それとも家の中か。
外に出ているのかもしれない。
ユーリは少し不安になる。
フレンがいない。
あんな素直なかわいい子、気に入られないわけがない。
「あら、ユーリじゃない」
母親が家から出て来た。
「久しぶり」
「ホントね、元気にしてたかしら。少し痩せたんじゃない?」
「んなことねぇよ」
気になって言葉が続かない。
「あの…さ…あいつ…」
「ん?フレン?」
「…まだ居る?」
少し緊張した面持ちで尋ねる。
答えを聞くのにこんなに心臓が痛くなるのは初めてだ。
「フレンは素直でかわいいからね、子供が欲しいって見に来る夫婦が一番に気に入っちゃうのよね」
「…………」
「でもフレンが行きたくないって言うから、今でもここに居るわ。今は部屋に居るかしら」
「………そっか…」
ほっと、体から力が抜けた。
「フレンに会いに来たんでしょ?」
母親の問い掛けにこくりと頷いた。
「母さん、俺の頼み、聞いてくれるか?」
母親は全てわかっていたように微笑んだ。
「あんたなら心配ないと思うけど…」
キッと顔を引き締めて言う。
「ちゃんと責任持つこと。いいわね」
「わかってる。」
ユーリも決意を持って頷くと母親はやれやれ、といった表情を浮かべて扉を開けてくれた。
たった二ヶ月なのに、もう知らない家になったみたいだ。
廊下に貼ってあるクレヨンや絵の具で描かれた色とりどりの絵は一新されていた。
カラッと戸を開けると、そこには以前と変わらない、地べたに座って絵本を読む小さな背中があった。
「…フレン」
「!」
ぴくんと体が反応して大袈裟に肩が跳ねた。
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今日はKKデーだったのでそこだけトルネに収めてひたすらリピ再生でした。
もうすぐシングル発売楽しみすぎるーーーっ!!!!
やはり兄さんたちとの絡みは良いですなvvvv
ノベルティの発注依頼がむりだったのでちょっと自己生産でお礼しようかと考えてます~
とか言って何もなかったらホントすみません…。
「お先失礼しま~す」
「お疲れ~」
仕事仲間に挨拶して、ユーリは仕事場から引き上げる。
施設を出て2ヶ月。
もう皆俺のことなんて忘れてんだろうなぁ、と考える。
まるで自分なんて最初から居なかった様に、新しい思い出が増えて行くんだろう。
共に育った子供たちが、引き取られて行くのをユーリは何度も見送ってきた。
始めは寂しいのだ。確かに。
でも一週間もすると慣れてくる。
一ヶ月も経てば顔もまともに思い出せなくなってきて、
二ヶ月経てば思い出すこともなくなる。
あいつもそうだろうか。
懐いてくれていた小さな子供。
不思議と、彼の顔も声も、頭から消えてはくれなかった。
いつものようになかったことにしてくれれば、この気持ちも楽だったろうに。
あいつは今日も笑っているだろうか。
俺のことなんか微塵も思い出すことはなく、楽しく暮らしているだろうか。
寂しいのは、俺だけだろうか…。
出迎えなど誰もしてくれない家に帰る。
鍵を開けた時、部屋が暗いのが今でも慣れない。
経験のない寂しさ。
コンビニで貰った期限切れの弁当を広げる。
味はしない。
「…俺…こんな弱い奴だったんだな…」
ただ目の前にあるものを口に運んでいく。
全て食べ終えて箸を置いた。
「…食べ終わったらごちそうさまだろ」
「 」
「…美味かったか?風呂には入ったか?もう寝るか?」
「 」
誰に話しかけているんだろう。
あるはずの素直な返事は、聞こえない。
目の前にあった弁当の空箱を勢いよく払いのけた。
カシャンとアルミが床に落ちる音がする。
ただそれだけが、響く部屋。
部屋なんて片付ける暇なんてなくて、荒れ放題。
「ユーリばっちい」と眉を寄せる小さな子供が頭を過ぎる。
ユーリは机に突っ伏して、腕を抱く手に力を込める。
「辛ぇ…」
毎日毎日、学校とバイトと家の往復の繰り返し。
足りない。
足りない。
足りない…。
心が締め付けられるような感覚は、あの日フレンと別れてから消えたことはない。
「……ほんと…ダメだな、俺…」
少し顔を上げたら、目線に置いてあった鏡に自分の顔が映る。
「俺のが先に音をあげるなんて情けねぇの…」
ユーリは疲れきった自分の酷い顔を見て、冷笑した。
こんなに、あの子に依存していたなんて…………。
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昨日書き忘れてしまってたんですが…
川上さんの訃報に心が痛みました。
戻ってきてくれると思っていたんですが。
まだ信じられない。
ご冥福をお祈り申し上げます。
ノベルティなんですが〆切的にすでに無理でした。orz
金曜までにどうにかしなきゃいけなかった。うっかりしてました。
明日休みなら…っ!!ごめんなさい…
次の日の朝。
ユーリはとうとうこの施設を巣立つ。
とは言ってもまだまだおんぶに抱っこの事実は拭えないが。
「ユーリたまには帰ってきてねっ」
「忘れたら許さないからな!」
「お土産も忘れんなよ!」
もう落ち着いていた子供たちも、いざ当日になると目を潤ませてユーリにしがみついた。
「あぁ。皆母さんにあんま迷惑掛けんなよ」
「ユーリに言われちゃおしまいね」
あははっと母親が笑った。
「なんだよそれ…」
ユーリがむくれると母親は優しく微笑んだ。
「いつでも帰って来なよ、あんたの家はここなんだからね」
「…あぁ」
ユーリも照れ臭そうに言う。
そして見送りの子供たちの顔を一人ずつ眺めて顔を曇らせる。
「……」
「…フレンなら…部屋に居るわ。」
「…そっか。」
「…無理矢理連れて来る?会いに行く?」
ユーリは首を横にゆっくり振った。
「いや、いい。辛くさせるだけだ。」
「あんたもね。」
母親の言葉にユーリは自嘲気味に笑った。
「フレンにとってあんたは誰にも代えられない存在なんだよ。
親でもなく、兄弟でもなく。ユーリという一人の人。時間出来たらちゃんと話してやりな。」
「…うん…」
ユーリは小さく頷いて、そしてまたいつもの笑みを浮かべて言った。
心配かけないように。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
母親に続いて子供たちも「いってらっしゃい」と口にする。
一人ずつ頭をくしゃくしゃ撫でてやって、ユーリは施設の門から出て行った。
「……………。」
フレンは一人でカーテンも開けない暗い部屋で
ぺたんと地べたに座り込んでお気に入りの絵本を見ていた。
ユーリが初めて読み聞かせてくれた本。
いつもワクワクしながら読めていたのに、今は寂しさしか出てこなかった。
「フレン」
母親が戸を開けて立っていた。
「まったくこんな暗い部屋で本なんか読んで、目を悪くするよ」
カーテンをシャッと開けると太陽の光が入り込んできた。
その光は、沈む心には辛過ぎるくらいの暖かさだった。
「さて、と。フレン、お掃除しなくちゃ。手伝ってくれる?」
母親が逆光越しに笑みを浮かべてこちらを見ている。
フレンは目を本に向けたままふるふると首を横に振った。
「…やだ。」
母親は初めて聞くフレンの反抗的な言葉に目を丸くして、苦笑した。
ユーリはすごいね、と。
「いたた…フレン、お母さん腰痛いわ。いたたたた…」
わざとらしく腰を摩る。
「………」
フレンはそれに目をちらりとやると暫く無視していたが、やがてゆっくり立ち上がった。
「フレンはいい子ね。」
『フレン、いい子にしてたか?』
「…僕…いい子じゃない…」
ぽたぽたこぼれ落ちる滴を、隠す様に抱きしめる。
「いい子だよ、フレンはとってもいい子。」
「…ふぇ…」
ついに声に出して泣きはじめたフレンを、母親はずっと抱きしめていた。
力を強めたフレンにユーリは優しく問い掛ける。
「どした?眠いのか?」
フレンはふるふると首を振った。
「…ユーリ…」
「ん?」
振り絞るような声がユーリに届く。
「…ユーリ、僕…僕もユーリと一緒に新しいお家で住みたい…」
「は?」
縋るような目を向けられた。
「何言ってんだよ、そんなの無理に決まってるだろ?」
「無理じゃないよっ?あのね、僕たくさん練習したの、」
「練習?」
フレンはこくこく首を縦に振った。
「歯磨きでしょ?お風呂だって一人で入れるし、
あとね、お母さんのお手伝いもたくさんしたからご飯だって大丈夫なんだよ!」
「……お前…いつから知ってたの?」
「夏にお母さんと、話してるの聞いちゃった」
なんてこった…
それはフレンがやたら一人でなんかしたがりだした頃だ。
急に成長を伺わせるような態度を見せたフレンに、ユーリは寂しさを覚えたものだ。
そんな前から…俺と暮らそうと頑張ってたのか…?
「…………」
ユーリはフレンを見詰めた。
かわいいかわいい俺のフレン。
さみしがり屋で、しっかり者で。
とても大切な存在。
手放したくない。
連れて行きたい。
「フレン…」
頭を撫でようとした手を、触れる直前、止めた。
「フレン、ダメだ。お前は連れて行かない。」
「…っどうして?僕迷惑かけないよ?一人で何でも出来るもん」
「そうじゃねぇ。俺学校行って、バイト行って、帰ってくるのは毎日夜だ。
休みの日だって一緒に居てやれねぇし、ここにいたらいつも寂しくないだろ」
「寂しいよ?だってユーリがいないもん!」
「一人で出来るっつっても限りがあるだろ。
俺お前に何もしてやれねぇしここに居た方がお前は絶対幸せなんだよ」
「幸せじゃないっ僕ユーリと一緒に行きたいっ」
「フレン!我が儘言うな!」
「……っ」
びくんと体を硬直させてフレンはユーリを見上げた。
「…フレンわかってくれ、お前のために言ってんだ…」
「……さい…」
青い顔をしたフレンがみるみる頬を赤らめて目に水の膜を張った。
「…めんなさい…もう、いわない…」
フレンは引きはがす様にユーリの体から離れる。
俯いた後ろ姿が、とても小さく、儚い。
「ごめんなさい…」
「ふれ…」
伸ばした手を避ける様にフレンは走って部屋を出てしまった。
これでいいはずだ。
連れて行っても、寂しくさせるだけだ。
これでいいはずなのに…
ユーリの心には痛みだけが残った。
ユーリが施設を出ると皆に知らせてから一週間が経った。
引っ越しはいよいよ明日に迫っていた。
子供たちは少し落ち着いて、また「遊んで」「遊んで」とユーリに群がる様になった。
だがフレンだけはユーリに近寄ろうとはせずに、母親の周りをちょろちょろくっついて回っていた。
お風呂から上がったユーリはお気に入りの金髪っ子が一人で絵本を読む後ろ姿に会った。
そっと近付いて本を覗き込む。
「お前本好きだなぁ…」
「ひゃっ!」
大袈裟にびくついた小さな体は振り返る。
「ユーリ…」
「懐かしいな、お前がまだ小さい頃は俺に本読め本読めってうるさかったんだよなぁ」
思い出して楽しそうに笑う。
「……今は一人で読めるよ?」
「そだな。」
と、フレンの体をひょいと抱き抱えて胡座をかくユーリの足の上に置いた。
抱きしめる様に腕を回すとフレンもしがみついてくる。
まだ小さかったフレンがこの施設に入って来たとき、
母親は他の子で手一杯で最後に入って来たフレンにまで手が回らなかった。
今は親になりたいと言ってきた人達のおかげでここの人数も落ち着いているが、
当時はそりゃ沢山の子供がいた。
子供(というか赤ん坊)がどちらかと言うと苦手なユーリが、
一人でいいから面倒見てくれと母親から押し付けられたのがフレンだった。
慣れない子守をして、必死に育てた子供、それがフレンだ。
いわばユーリはフレンにとって母親よりも母親なのだ。
他の子よりも情が移ってもしょうがない。
我が儘を言わない子で、手はかからなかった。
だけどいつもどこか嫌われることを恐れていて、自分の欲求を口にすることもないから、
心を探るのに時間がかかった。
それでもその心をなんとか読んで、プレゼントしたものが彼にとって「当たり」だったとき、
フレンはとても嬉しそうにするから、もっと喜ばせてあげたいと思うようになった。
絵本だって沢山読み聞かせたし、さみしがり屋のフレンは抱きしめられると落ち着くようで、
毎日毎日抱きしめてやった。
俺が居なくなるとさみしがるかな、と思っていたユーリだが、
フレンは今までそのことに対して何も感じていないようだった。
いつものようにお手伝いをして、聞き分けのいいお利口さんのままだ。
ちょっと寂しいと思ったのは俺だけなのか、とフレンの頭を撫でてやると、
フレンのしがみつく手がきゅっと強くなった。
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漸くオフライン更新しました。お待たせいたしました。
簡易的ですみません…またの機会があれば…ちゃんとページ作りたいとおもいます。
ノベルティと言う名の購入者特典をどうするか考え中です。
当日なかったらすみません…;;
